至福の3時間  第12回

お久し振りで御座います、皆様。
芸術の秋深まり行き、もう終る頃が参りました。
拙者としては、当映画コーナーを預かりましたからには、
このまま芸術の秋に去られるのは少々心寂しい。
そこで、一風変わった余りにも不可解な芸術などに目を向け、
去る秋の一つの趣と致したく考えております。


エド・ウッド


「どうしようもない。」
「話にならない。」
「ありゃ一体何なんだ!?」

エド・ウッドとはかつて存在した映画監督。
つまりこの作品は伝記映画なのですが、
まぁ、事実は小説よりも奇なりと、
つくづく感嘆する人生を歩んでおられたようで。

映画監督エド・ウッドは後世にて、
『史上最低の映画監督』
という、大変不名誉な称号を磐石に得ます。
無論、その理由となるのは彼の撮る映画。
「ナゼにこんなにワケの判らんものを?」
と首をかしげる(見たら実際にかしげますよ)フィルムの中身。
売り込んだ所で無論のこと。
どこの映画会社も首を縦には振りません。
そこを必死に映画会社に媚を売ったり、
落ちぶれたスターをもう一度使ってみたり、
交渉のためにコロコロ内容を替えたり。
もう必死で足掻いて何とかして発表に漕ぎ着けようとする訳です。
そんなことしなきゃいいのに、
ソレが元で映画の中身は更に劣化、悪質化。
果ては友人として仲良くなったかつてのスター、
ベラ・ルゴシの無茶苦茶に付き合うハメになったり、
信じてきた恋人に愛想をつかされたり。
ホント、見事な泥沼。
こんな人が最後にゃーどうなってしまうか・・・・・・
はお約束として伏せときますので。

ところがこの「エド・ウッド」。
全く不可解な男を不可解なまま描いた割に、
映画としては見事な妙作なんですよね。
つくづく映画というモノの深さを感じます。
見ていて全然飽きない。
訳が判らないのに「もういいや」とは思えない。
撮影は1994年なのに、
全部白黒の古めかしい銀幕風情というのも、
見事なまでに舞台にマッチし、
伝記を読む、映画を見ると言うより本人を横で見ているよう。
拙者、親身に彼を心配してあげたくなるほどに、
感情移入できてしまいました。

キャスティングも凝りに凝ってまして。
主人公エド・ウッドには若手演技派、
しかも雰囲気作りの大天才、ジョニー・デップ。
落ちぶれたスター、ベラ・ルゴシには、
マーティン・ランドー。
またこのマーティン・ランドー、
本物のベラ・ルゴシにソックリなんですよ。
他、こちらもいい加減本人ソックリの、
オーソン・ウェルズ役ヴィンセント・ドノフリオ。
こっそり脇にビル・マーレーが居たりして、
リアリティから遊び心まで完璧な演出。
いやぁ、ティム・バートン恐るべし。
実際こんな快作を生み出す人物が、
「史上最低の映画監督」を撮っている、
そんな事実もいとをかし。

という訳で、真っ当な芸術に少々飽きてきたグルメな方、
「エド・ウッド」はダントツのオススメです。



「エド・ウッド」 1994年 米

監督 ティム・バートン
出演 ジョニー・デップ / マーティン・ランドー
    サラ・ジェシカ・パーカー / パトリシア・アークェット
    ビル・マーレー / ジェフリー・ジョーンズ
    ヴィンセント・ドノフリオ 他

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