第4回なんじゃこりゃ!?


「どちて?どちて?」アニメ「一休さん」の「どちて坊や」はそういって一休さんを困らせた。
でも彼はただ純粋に好奇心旺盛なだけだった。それは素晴らしいことだ。
そして現実にも「どちて坊や的な人」はたくさん存在するはずだ。
そんな彼らに贈る不思議物体紹介コーナー、「なんじゃこりゃ!?」。
今回はずばり「日本一の信楽焼きタヌキ」である。



日本一の信楽焼きタヌキ






「なんじゃこりゃ!?」のネタを決める時には
いつも1つ気をつけていることがある。
それは、そのネタに何か重々しい資料があるかどうか、ということである。
例えば、説明のついた記念碑などはその典型な例といえる。

しかし、今回はそのような資料の有無などを 一切考えることなく(ネタに苦しんでいることもあり)、
友人の「前から気になっててさ。」の一言で決めることにした。

後日、僕は、資料なんてなくても思いついたまま紹介すりゃいいさ、てな具合に
肩の力を抜いて目的の場所を訪れた。
しかし、そのことが僕に新たな取材の面白さを味わせてくれるとは
その段階ではまだ予想だにしなかった。




静岡県立大学から南幹線を清水側へ向かい300メートルぐらい進むと
スーパーいやまがある。
そのいやまの駐車場の向かって左端に
その「信楽(しがらき)焼きのタヌキ」は悠然とたたずんでいる。

〜地図へ〜
  


目的の「タヌキ」は南幹線沿いにあったから、何となくは知っていた。
しかし、今回のようにまじまじと見つめてみると、確かに面白い。
なんともいえぬ迫力がある。
例えるなら、そう、子供の時、仮面ライダーショーで見た怪人の迫力に似ている。
今にも喋りだしそうなほど豊かな表情。
飲まなけりゃ損だといわんばかりのとっくりの似合いっぷり。
うーむ、僕はそう唸らずにはいられなかった。


すっかりその魅力にとりつかれた僕はなんとかルーツを知る手がかりはないかと、
タヌキの周りを調べてみることした。
すると、腹の部分に「あづま園」と書いてあるではないか。
早速僕はその「あづま園」とやらを訪ねることにした。


ちょうど南幹線沿いに「あずま園」の矢印のついた看板があったのでその方向へ足を運んだ。
途中、近所のおばちゃんに道を訪ねるとすぐにその「あずま園」は見つかった。

「スーパーいやま」の裏にあった「あづま園」とは趣深い盆栽屋であった。
勇気を振り絞り、丁度店の前にいた人に「タヌキ」について尋ねると、
「親父がもってきたものだから」と
店の中に通され、店主の高木昭夫(あきお)さんを紹介された。


高木さんは70歳くらいの人当たりの良い感じの人で、「タヌキ」について快く話を聞かせてくれた。


タヌキは陶器の名産地である滋賀県信楽(しがらき)で作られた信楽焼きである。
全長3、3メートル、体重500キログラム。
信楽焼きとは作られるのに、普通1年以上かかるもので、
これ程の大きさだと3年以上はかかる。 作られたのは戦前で、信楽焼きとしては
なんと日本一の大きさを誇っている。

もともと「タヌキ」は2体あり、1体は東京に運ばれたのであるが、
それは戦時中に壊れてしまい、現在ここにあるのが全国で唯一のものとなっている。


昭和38年、盆栽の仕事柄その信楽をよく訪れていた当時20歳の高木さんは、
そこで偶然「タヌキ」のことを知り、是非店の顔として「タヌキ」を置きたいと考えた。
しかし、当時そのタヌキは信楽の顔とも言える存在で、
とても売りにだせる物ではなかった。

当然最初に、譲って欲しいと申し出た時にはあっさりと断られた。
それでも高木さんはそのタヌキが諦め切れず、一晩泊まりこみで交渉し、
なんとか譲り受けることに成功したのである。ちなみにその「タヌキ」は
知る人ぞ知る人気者で、熱海などからも是非欲しいとの要望があった。


快く取材に応じてくれた高木昭夫さん


譲り受けた値段は当時で30万円程し、信楽から草薙にまで運ぶ際にも30万円の保険を
かけた。まだまだ駆け出しの若造でしかなかった高木さんにとって
そんな大金を簡単に工面できるはずはなかった。
しかし、タヌキに対する情熱の前にはそんな大金も惜しいとは思わなかった(少しは思った)。 そういった面から考えても高木さんがいかに「タヌキ」に惚れ込んでいたのかがわかる。


なぜそこまでするほどそのタヌキに惚れ込んだのかと尋ねてみると、
高木さんは懐かしそうにこう言って笑った。
「なんででしょうね。タヌキという物は縁起が良いものであったし、
とにかくどうしても欲しい、と思ったんでしょうね。強いてあげるなら
日本一っていう響きに惹かれたのかもしれないですね。」



若かりし頃の高木さんは自身の盆栽屋の将来に夢を馳せ、最高のパートナーとして
その「タヌキ」を向かい入れたのである。
当時の事を話す高木さんはとても生き生きとしていた。


現在店と離れたところにあるのは南幹線が出来たときに
排気ガスで盆栽が痛むという理由で店を移し、
「タヌキ」はそのままにしていたからだそうである。


「タヌキ」の反響は大きく、バスに乗っている園児がそれを見て大騒ぎしたり、
遠路はるばる見に来る人がいるらしい。
一度、SBSラジオにも取り上げられたことがあるそうだ。


話を聞き終えた帰り、もう一度タヌキの前に立ち、改めて眺めてみると、
そのたたずまいがまるで自分のことのように誇らしく思えた。
この草薙にも高木昭夫さんのような人に惚れ込まれた日本一の「モノ」がある、と。





(終わりに)
冒頭で述べた「新たな面白み」とは「なんじゃこりゃ?!」を通して、
高木さんのような味わい深い人物に出会えたことである。
次回からもそんな出会いに触れ合いながら、取材していければ、と願う。


(連絡)
この「タヌキ」には名前がないそうなので名前を募集します。
是非、掲示板などに投稿して下さい。
高木さんによって許可をとってあるので正式に認められます。
どうぞ、よろしく。

担当:竹千代

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